産地紹介・産地レポート

都心から約2時間、100km圏内にある水戸市は日本三名園である偕楽園が有名ですね。
特に梅の名所として知られ、早春には多くの人が訪れるそう。 桜井さんのハウスはそこから東へ
約12kmほどの大洗海岸近く。海の風も感じられる空が広い土地にあります。

生産者名 桜井園芸 代表者

桜井宏久さん

住所 茨城県水戸市 ホームページ  
生産品目 ユーチャリス(切り花)・クリスマスロース(鉢物) 圃場面積  
  • 農業のサイクルは20年という哲学を持つ桜井さん。同じ品目の中でも品種が移り変わり、あるものは淘汰されるように、時代の流れを読み取り転換(変化)していくことが大切だと語る。 温厚な人柄ながらまだ栽培方法が確立していなかった植物にみずからチャレンジする経歴からは植物への尽きることのない探究心と植物への愛情を感じます。

2015/2/5

農業のサイクルは20年という哲学を持つ桜井さん。
時代に合わせ分野の違う品目への転作し、格調高いウェディングブーケの代名詞であるユーチャリス
作りに貢献されてきました。日本で周年栽培する農家はたった2軒になってしまったユーチャリス生産者、
桜井宏久さんにお話をうかがいました。

桜井さんとユーチャリスと出会いは30年ほど前。
ある雑誌に掲載されたユーチャリスの栽培についての文書を読んだのがきっかけでした。
大阪府立大の今西先生が書かれたユーチャリスの開花生理についてまとめたもので、
当時日本では栽培技術が確立されていませんでしたが、
桜井さん自身の未知の植物への探究心が、生産をスタートさせることを決意させたのでしょう。

ユーチャリスはその純白の花弁と中心のグリーンの美しいコントラスト、清楚な凛とした雰囲気で
婚礼のブーケとして人気が出始め、1985年に松田聖子さんが結婚式にユーチャリスのブーケを
持ったことで一躍有名になりました。

学名の「Eucharis  grandiflora」の「Eucharis」はギリシャ語で「eu(よい)」と
「charis(引き付ける)」からなり「良いことをひきつける」という意。
まさにブライダルに相応しい花ですね。

時はバブル期。贅沢な結婚式も多く高価なユーチャリスのブーケも非常に人気がありました。
その注文に応えるべく、桜井さんは全力を尽くし安定供給のため試行錯誤でユーチャリスの周年栽培・
出荷に挑みました。一時は注文数が生産数を越え、オランダから蕾の状態のユーチャリスを輸入し、
それを開花させて出荷するという方法で対応したそう。
沢山の花嫁さんの笑顔はこんな風にも支えられていたんですね。
その後、何年もかけ現在のような1年中安定して出荷ができる体制に整えていったそうです。

ユーチャリスはヒガンバナ科の高温性の球根植物で半日陰を好みます。
開花には高温処理が必要で圃場の地下には地中を温かくする管と冷やす管が通り、
地温を制御しています。このシステム維持に非常にコストがかかるそう。
また組織培養で増殖した苗を購入しなければならないため種苗費が高いことも、新規参入が
ほとんどない理由や近年多くのユーチャリス農家が転作や撤退を余儀なくされている一因に
なっているのでしょう。


(ビニールの中の様子)

さすが高温性の植物だけあってハウスの中はポカポカ。
一面に広がるユーチャリスの葉のグリーンが美しく、力強く伸びています。
列によって花が咲いている場所とない場所があります。 これが周年出荷できる秘密の1つ。
地中に通る管の温度を順番に調節して咲く時期を管理しているのです。

もちろん季節によって温度を加えてから開花までの日数が変わってくるため
長年の経験や知識、花の状態を見て、桜井さんのベテランの技量で調整します。
その畑に咲くユーチャリスは陽の光で真っ白な花弁が輝き、控えめなうつむき加減の姿は、
奥ゆかしさを感じます。

「中心のグリーンの部分があるでしょう。この色がきれいなグリーンにするのが難しいんですよ。
日光量が多いとすぐに黄色っぽくなってしまうので季節によって遮光量を変えています」

と桜井さん。なるほど。中心の王冠は透明感のあるきれいなグリーンです。
この緑色が白を一層引き立たせているんですね。

ユーチャリスを栽培し20年を過ぎた今、頭をよぎるのはやはり農業のサイクルは20年という言葉だそう。

「ユーチャリスは色のバリエーションがないし、なんといっても最近は注文も減っているからね」
と少しさびしそうな表情と雛の巣立ちを見届けたようなやさしい達成感が入り混じったような
複雑な感情が見え隠れしていました。

よくファッションのサイクルも20年と言われますが、
リバイバルとして形を変えて多くのアイテム・デザインが復活しています。
需要を満たすため努力をつづけるサプライヤー(生産者)。今度はわたしたちバイヤー、フロリーリストが
デザイン・使い方を進化させ、次世代へ繋げる役目をおっているのではないでしょうか。

  •  クリスマスローズ(鉢)も綺麗に咲いていました

ここ数年の異常気象や温暖化の影響は少なからず受けているが、生育は順調。
出荷量も例年と同じ量を見込でいます。

品種名 規格 特徴/こだわり 生育状況/出荷時期
ユーチャリス 純白の花弁と中心の美しいグリーン 年間出荷

宝石のように繊細な花を扱いつづけるベテラン。
出荷者・生産としてのプロフェッショナルとしてユーチャリスの周年栽培を日本で確立させ お客様
(フローリスト)の需要に応えるために努力をされつづけたその強い意志に深い感銘を受けました。

(文責:松本真由美)

(営業担当:東京 TEL/047-306-5587)